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2013年05月06日

究極の投球フォームについて考える

投球に伴って起こる腕、肘の故障はどういうフォームで起こりやすいのか、それを防ぐ投球フォームについて、肩、肘の解剖と投球動作の物理的側面を考慮に入れて検討してみたいと思います。

肩の故障

@回旋筋腱板損傷
 肩の故障で多いのが肩関節の回旋筋腱板損傷。中日の浅尾拓也投手が現在痛めている疾患です。

A関節唇損傷

 投手のようにオーバーハンドスローを肩に力を入れて繰り返し行うと発生しやすくなります。投球のワインドアップ以外、どの段階でも発生する可能性があります。

肩関節の関節唇
関節唇.jpg
shoulder joint labrumのコピー.jpg
shoulder joint glenoid labrum3のコピー.jpg

 関節唇は肩の肩甲骨の浅い窪みの淵にある繊維状の軟骨で、浅い窪みを深くし、上腕骨の骨頭がこの窪みから外れないようにしています。日本ハムの斎藤佑樹投手も昨年、関節唇を損傷してしまいました。現在はリハビリ中です。
 関節唇損傷と回旋筋腱板損傷は同時に起こることも多く、関節唇損傷の40%に回旋筋腱板損傷を伴っていると言われています。

肘の故障 

@内側側副靭帯損傷
 肘の手術ではトミー・ジョン手術が有名ですが、これは肘の小指側の内側側副靭帯を再建(移植)する手術です。

投球動作の段階の分類
肩、肘の障害は、ワインドアップを除き、どの段階でも起こり得ます。特に急激な速度の変化(加速、減速)を起こすような投げ方は怪我につながります。
throwing phaseのコピー.jpg
別の分類
pitching motion phase.jpg

 
肩の骨の解剖
bony anatomy of the shoulder2.jpg
 肩関節はゴルフボールがティー(ソケット)に乗ったような構造をしていて、浅い窪み(ソケット)に丸い球状の形をした上腕骨の端(骨頭部、ボール)がはまったようになっています。そのため、腕をいろいろな方向に動かすことが可能だいう長所がある反面、不安定で大きな力がかかれば外れるかもしれないという不安定な構造となっています。

 この不安定さを安定化するためのしくみのひとつがローテーター・カフ(回旋筋腱板)という筋肉です。英語ではrotator cuffです。日本語では回旋筋腱板と訳されています。

ローテーター・カフ(回旋筋腱板)、右肩
rotator-cuff-muscles2.jpg
ローテーター・カフのコピー.jpg
Rupture-of-The-Rotator-Cuff2.jpg

 ローテーター・カフは肩甲骨と上腕骨の骨頭に付着した4つの板状の筋肉です。ローテーターとはローテート(回転、旋回)する物という意味で、肩関節では腕が旋回しています。カフは袖口という意味で、4つの板状の筋肉は袖口のように見えます。それで、ローテーター・カフと言われています。

 ローテーター・カフを構成する4つの筋肉

@棘上筋
A棘下筋
B肩甲下筋
C小円筋

 障害の頻度は@棘上筋が一番多く、次が棘下筋、その次が肩甲下筋で江川卓投手が痛めて引退のきっかけとなった筋肉です。障害が起こるのは回旋筋腱板の上腕骨に付着する腱の部分です。棘上筋は腕を上に上げるとき最初に働く筋肉で、そのあと肩を覆う大きな筋肉である三角筋が働きます。棘上筋の棘とは肩甲骨の後ろ側の棘のように出っ張った部分のことで、その上に棘上筋が、その下に棘下筋があります。
 ソフトバンクの斉藤和巳リハビリ担当コーチも肩甲下筋を故障し手術を行っています。肩甲下筋を故障するというのは程度としては重症なようです。
 腱(tendon)は筋肉(mustle)が骨に付く手前の部分で繊維状になっています。下腿の筋肉はアキレス腱に変化して踵の骨に付いています。rotator cuffの筋肉(mustle)を指す場合はrotator cuff mustle、腱(tendon)を指す場合はrotator cuff tendon と言います。

肩関節棘上筋関節唇2.jpg

 肘の故障に関してはトミー・ジョン手術で有名な肘関節内側側副靭帯損傷があります。肘関節内側側副靭帯が引き伸ばされて起こる故障です。大リーグの日本人では松坂投手が2011年に手術を行っています。

肘関節の解剖、右肘(体の内側から見た図)
Anotomy of the elbow.jpg

内側側副靭帯の位置(赤色の部分)
mcl位置のコピー.jpg

内側側副靭帯は3つの束からなるが、最も引っ張応力がかかるのが前束である。
ucl mclのコピー.jpg
elbow articular cartilage.jpg
elbow collateral ligament.jpg
elbow medial collateral ligament.jpg
elbow collateral ligament back side.jpg


 投球時には下図のように肘の外反(通常でも10から20度程度は外反している)を増大させるような力がかかり、その結果内側側副靭帯に引っ張り応力がかかり、組織に微小な損傷、部分断劽、稀なケースではありますが場合によっては一球投げただけで完全断劽ということも起きます。
valgus forceのコピー.jpg

肘の内側側副靭帯に大きな引張り応力がかかる投球動作の段階はいつか?

strasburg side lay back slow.gif
strasburg max external rotation.jpg
lay back wagner-300x199のコピー.jpg
前腕が最も後方に倒れ、肩関節が最大外旋(maximal external rotation)し、引き続き内旋に切り変わる時期は、前腕の回転の加速度が最大になり、前腕の質量の慣性により肘関節には大きなトルクがかかります。

 腕の振りが加速中に肘には外反を増加させる力、つまり外反力が働き、肘関節には外反トルクが働きます。
腕の振りと外反ストレス.gif

内側側副靱帯と外反力発生メカニズム.jpg
いったいどれぐらいのトルクがかかれば内側側副靭帯は破断するのでしょうか?

死体の靭帯で実験した結果はなんと、32Nm=3.3kg重・mでした。

肘の断面での前腕の回転中心と側副靭帯までの距離を5センチ(0.05m)と仮定すると、
側副靭帯にかかる力は、3.3/0.05=66kg重
となります。

投球の度に発生する外反トルクは靭帯の許容限度を超えているのになぜ靭帯は破断しないのか?

手首を曲げる屈筋(橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、flexor carpi ulnaris and radialis)も外反トルクに対抗しているからです。

 この“lay-back”レイバックの体勢は内側側副靭帯に大きなストレスをかけているのですが、他の投球動作の段階でもストレスがかかる部位があります。
 先に挙げた屈筋を含む、屈筋回内筋群、flexor-pronator mass はコッキングから加速の段階に移行する投球動作の段階で大きな負荷がかかります。この段階ではそばを通る尺骨神経も大きな危険にさらされます。
 屈筋回内筋群の力が弱いと、外反トルクと対抗するのに内側側副靭帯にかかるトルクがその分大きくなるので、屈筋回内筋群を鍛えることは内側側副靭帯の損傷を防ぐためにも大事です。

肘の曲がり具合はどれぐらいがいいのか?

SCIENTIFIC STUDIES
科学的な研究結果

Between 30° and 120° of elbow flexion, the UCL is the primary stabilizer against valgus force.1 Outside of this range, bony structures and other soft tissues take larger roles in stabilization.
肘の屈曲が30度から120度の間では、外反力に対抗して肘の安定を保つ一番の役割を果たすのは尺側(内側)側副靭帯である。(肘の屈曲が)この範囲以外では骨の構造物や他の軟部組織(屈筋、回内筋、他)が安定化にもっと大きな役目をします。

Morrey and An showed that, at 90° of flexion, up to 55% of the stabilizing force is contributed by the UCL.
モーレイとアンは、肘が90度屈曲しているとき、肘を安定させる力の55%までもが尺側(内側)側副靭帯のおかげだということを示しました。

肘の屈曲は90度のとき、尺側(内側)側副靭帯には最も大きな引張応力が発生する

Physics tells us that valgus torque is greatest when the elbow is flexed to 90° (explanation in the following section). In the Morrey and An study, it was shown that the UCL handles its largest relative valgus load when the elbow is flexed to 90°. Combined, these two facts illustrate that valgus stress in the UCL is greatest when the elbow is flexed to 90°.
外反トルクは肘の屈曲が90度のとき、最大になることを、物理学は教えています。モーレイとアンの研究では、尺側(内側)側副靭帯は肘の屈曲が90度のとき、相対的に外反力にもっとも大きな抵抗(反作用)を示すことが証明されました。これらの2つの事実をあわせると、尺側(内側)側副靭帯での外反ストレス(引っ張応力)は肘の屈曲が90度のとき最大になります。

腕の角度と外反トルク(valgus torque).jpg

forearm lay back.gif

コッキング初期のテイクバック時、肘からボールを後ろに引いて肘を高く上げるフォーム

腕をムチのようにしならせ、前腕が遅れて出てくる(lay back、レイバック)投げ方で、球速は出ますが、肘の内側側副靭帯に急激な引っ張応力がかかり、靭帯に損傷が起こり、トミー・ジョン手術を要する危険性があります。
 サイドハンドスローでも肘を大きく曲げ、腕をムチのように使う投げ方だと、トミー・ジョン手術を要する危険性があります。

(ESPNの記事より引用)
トミー・ジョン手術(尺側(内側)側副靭帯再建術)が必要となる投球フォーム、逆W
inverted W.jpg
Faulty mechanics seen as a pitcher's foot comes down -- note the unhealthy inverted W's of the arms above -- have forced some of the games best pitchers to have Tommy John surgery.
投手が前足を着地したときに見られる(文字Wをひっくり返した形になっている不健全な腕の形、逆Wに注目してください)誤ったメカニクス(投球動作)が、野球というスポーツの最も優秀な投手の内の何名かをトミー・ジョン手術へと追いやりました。

ESPNの記事のタイトルは、
Force of habit
習慣の力(習性)

Science, not the scalpel, is the real solution for Tommy John injuries. Too bad few MLB teams are paying attention.
メスではなく、科学がトミー・ジョン障害の真の解決策である。残念なことに、このことに注意を払っている大リーグのチームはほとんどいません。(ボルチモア・オリオールズはその例外的な球団です)

 最近トミー・ジョン手術を受けた大リーグの投手で有名なのは、ワシントン・ナショナルズのステファン・ストラスバーグですが、彼と大リーグで最初に手術を受けたトミー・ジョン本人との共通点は?
But the two pitchers -- as well as many others who have undergone UCL reconstruction -- have one thing in common: a mechanical flaw in the timing of their deliveries that causes the arm to lag behind the rest of the body, putting extra stress on the shoulder and elbow.
 しかし、この2人の投手は、尺側(内側)側副靭帯再建術を受けた他の多くの投手もそうですが、共通点が1つあります:一連の投球動作のタイミング上の欠陥で、腕が体の他の部分よりも遅れて出てくることです。これは余分のストレスを肩や肘にかけてしまいます。

トミー・ジョン手術(尺側(内側)側副靭帯再建術)を受けた大リーグの投手の投球フォーム

ジョン・スモルツ、213勝155敗、154セーブ
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ビリー・ワグナー、最速101mph(約163km/h)の速球を投げた。あだ名はビリー・ザ・キッド。通算セーブ数は歴代5位の422。
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ステファン・ストラスバーグ(ワシントン・ナショナルズ)。2011年にトミー・ジョン手術を行なったので、2012年度は投球回数が160イニングに制限された。
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ヤクルト館山 昌平、2013年4月12日、2度目のトミー・ジョン手術を受けた。
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元ヤクルトの林昌勇(イム・チャンヨン)、サイドハンドから最速160キロを記録。2012年7月、トミー・ジョン手術を受けた。現在シカゴ・カブスと契約しているが、2013年度はリハビリで終わるかもしれません。リハビリは一年必要なので、登板できるようになるのは7月以降の見込みです。今シーズン中に藤川球児投手との継投が見られるだろうか?。
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西武、田中靖洋投手(2010年トミー・ジョン手術を受けた)
高校生の時に内野手から投手に転向。柔らかくしなる腕の振りから時速144キロを投げた。
柔らかくしなる腕の振りは褒め言葉のようであるが、肘、肩を故障しやすいと言えます。
将来、藤川球児投手のようになれると監督に言われたそうですが、藤川投手のフォームを真似したかどうかは知りませんが、藤川投手のフォームはテイクバックで肘が肩よりも上がり、inverted W(逆W)に近く、肩、肘にストレスのかかる投げ方なので、真似しないほうがよいと言えます。
 腕を背中側に大きく引いている 
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 腕の遅れ
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田中靖洋投手、2012イースタンリーグでの投球(動画)


藤川投手のテイクバック、inverted W(逆W)に近く、肩、肘にストレスのかかるフォーム
2011年オールスターゲーム、時速151キロ
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2013年05月04日

投球メカニクス(投球論)@、300勝投手ゲイロード・ペリー(Gaylord Perry)編

 大リーグで300勝以上挙げている投手は現在までにわずか24人で、今は先発5人分業制が主流になっているので今後300勝以上達成できる投手はなかなか出てこないのではないかと言われています。24人の内、第2次世界大戦以後に300勝を達成した投手は12人です。

 ゲイロード・ペリーは不正投球スピット・ボール(唾、ワセリン、歯磨き粉とかをボールに付けたり、爪等でボールに傷を付けたりしてボールに大きな変化を付ける行為)で有名な投手ですが、すばらしい成績を残しています。1920年まではスピット・ボールは禁止されていなかったという歴史があるせいか、スピット・ボールに対しては規制が甘いようです。薬物に対しては厳しいのですが。禁止になった理由はスピット・ボールが打者の頭に当たって大リーグ史上、事故による2人目の死者が出たからです。

 ゲイロード・ペリーは1962年から1983年まで22年間(44歳まで)サンフランシスコ・ジャイアンツを中心に8つのチームで活躍しました。

 大リーグ通算記録:314勝265敗、防御率3.11、奪三振数3534、四球率2.3/9回、三振率5.9/9回
 サイヤング賞を両リーグで一回づつ受賞、ノーヒット・ノーラン1回。
 15勝以上を連続13年続けました。これを上回るのはサイ・ヤングの15年と、グレッグ・マダックスの17年だけです。

ゲイロード・ペリーはスピット・ボールで有名な投手ですが、投球フォームはサイドハンドスローに近く、肩を横に回転させる投げ方で、制球も良く、肩、肘の故障もなかったようです。

 フォーム的には現在の大リーグで主流の投げ方に近く、非常に良い投げ方だと思います。大変参考になる投げ方だと思います。

 ゲイロード・ペリーの投球フォーム
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 ゲイロード・ペリーの投球フォーム(連続写真)
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 投球メカニクス(pitching mechanics)

 メカニクスとは技法、手順、力学といった意味ですが、投球メカニクスはうまく翻訳しづらい用語です。投球動作の連動といった意味ですが、しっくりこないのでそのままメカニクスを使わせてもらいました。

 ゲイロード・ペリーの投球メカニクスは肩を横に回転させる投げ方で、サイドハンドスローに近い投げ方です。ボールのリリースポイントあたりで腕はほぼ地面に水平で、アトランタ・ブレーブスのクローザー、クレイグ・キンブレルとほぼ似たフォームです。

 それでは、投球フォームの連続写真の流れに沿ってゲイロード・ペリーの投球動作を見ていきましょう。

投球動作の段階
pitching motion phase.jpg

@ワインドアップの始めの姿勢

 ワインドアップとは巻き上げるといった意味で、腕、足を巻き上げるように上に持ち上げる動作です。ゲイロード・ペリーはホームプレート方向を向いた姿勢からワインドアップを始めています。日本の投手に多い動作です。現在のアメリカではあまり見ない動作です。

Aワインドアップ

 左脚の膝を右脚の膝よりも2塁側に回転させて、股関節を十分に内旋させており、その結果、背中がホームプレートの方向を向いています。上半身と下半身が十分に捻られています。

 これは肩を横に回転させるのに必要な動作です。ここで注目したいのはどの高さで上体を捻るかです。背中を見ると背中は平らで捻られた感じがしません。股関節の高さで上半身と下半身が捻られているからです。つまり股関節の内旋で上半身と下半身が捻られているからです。

 腰から上を捻るのはあまり効率的とは言えません。腰を回転させる専用の筋肉はないので、腰を回転させる動作は遅く、大きな力も出ないので補助的な役割でしかありません。大事なのは股関節を使って骨盤を素早く回転させることです。その結果、骨盤の上にあるすべてが回転するので、肩も水平に素早く回転します。

Bコッキング前期、テイクバック始め

 コッキング(cocking)とは上に向けるといった意味で、cockはオスの鳥のことで、動詞としては上に向ける(頭か羽かよくわかりませんが鳥の動作から来ているのでしょう)という意味があります。
 右腕は下げたままでセンター方向には引いていません。体が前に移動するので腕はそのまま慣性に従ってそのまま残す感じです。

Cコッキング前期、テイクバック

 腕は背中側に大きく引いてはいません。また肘も高く上げていません。両肩を結ぶ線よりも下の位置にあります。肩、肘に大きな負荷はかかっていません。

Dコッキング後期

 前腕を垂直に立てています。

Eコッキング後期

 前足が着地。ストライドはあまり大きくはなく、両足が地面から離れない程度の大きさです。グラブは脇に抱え込みます。

F加速期

 加速期は腕が前に進む速度が急速に速くなる時期です。
 軸足を思い切り蹴り右腕の前腕は水平に倒します。

G、H加速期

 肘が伸びて行きます。上体は前に少し倒れて行きます。

I加速期

 ボールのリリースポイント。腕は地面と水平の高さで、サイドハンドスローと同じ高さです。

J減速期

 前脚はホームプレートからセンター方向を見れば、垂直になっています。体の重心は前足と軸足を結ぶ線の上にあり、投球の基本が守られています。

Kフォロースルー

 上体は前に倒れ肩の縦回転も大きくなります。肩は水平方向にもよく回転し、上体は1塁側に向いています。フォロースルーも十分にとっています。肩、肘を急速に減速させると負荷がかかるので、フォロースルーを大きくとることは大事です。

 まとめ

 テイクバックで腕、肘を高く、あるいは背中側に大きく引いておらず、前足を踏み出す時、骨盤を回転させながら行っているので、腕、肘が遅れて出てくることもなく、肩、肘に負荷のかからない投球フォームと言えます。
 F、G、H、I加速期の両肩と右肘の位置を見ると、右肘は両肩を結んだ線上にあり、これは肩に大きな負荷がかかっていない証拠です。肩の水平内転がされておらず、肩にトルク(回転させる力、力のモーメント)がかかっていないことを意味します。ボールのリリースの瞬間にだけ、積極的に肩にトルクをかけています。
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2013年04月18日

理想的な投球フォーム

 理想的な投球フォームの条件を4つ挙げてみましょう。

@球が速い
A制球が良い
B肘、肩への負担が少なく怪我をしないで長い年月(20年以上)投げれる
C投球動作の始動からボールが手から離れるまでの時間が短い


Cを加えたのは球が時速140キロ代の前半の速球でも、投球動作が速いと打者がタイミングを取りづらく、空振りすることが多いからです。具体例は大リーグでは上原投手、日本のプロ野球ではソフトバンクの摂津投手です。大リーグでは球が速いだけでは通用しないようです。いかにタイミングを外すかが必要なようです。また、制球が良いことも大事ですが、コースを狙うよりもタイミングを外す方が効果はありそうです。大リーグの打者はパワーがあるのでタイミングさえ合えばボール球でもホームランを打つからです。

 大リーグで@、A、Bを満たしている投手を一人挙げるとすると、1910−1920年代に活躍した右のサイドハンド投手ウォルター・ジョンソンがその代表です。

 ジョンソンの成績はすばらしく、通算勝利数はサイ・ヤングの通算511勝に次ぐ、417勝で大リーグ歴代2位です。防御率は2.17でサイ・ヤングの2.63を上回っています。通算完封数は歴代1位の110でこれを破る選手はもう出てこないでしょう。球速は90マイル代中から後半だったそうです。通算三振数は3508で、これを最初に破ったのは現テキサス・レンジャース社長のノーラン・ライアンです。
制球も良く、四球率2.1/9回でした。

Bの肘、肩への負担が少ない理由

 野球でオーバーヘッド動作という表現があります。これは腕を頭よりも高く上げる動作をすることで、この動作は野球に限らず、バレーボール、その他のスポーツでも同様に肩に無理がかかる動作です。
 そういう理由で、オーバーハンドスローは怪我をしやすいと言えます。

 ソフトボールの投手が怪我をしないのは重力を利用しているから

 ソフトボールではボーリングの投球同様に重力で腕が自然に落下しスウィングするのを利用できるので、肩に負担がかかりません。また、肘は伸ばしたままなので肘の故障もないようです。
 したがって、ソフトボールの投球フォームは怪我をしにくいと言えます。野球のサイドハンドスローも同様です。四つ足動物の前脚の向きは体軸に対して直角なので、サイドハンドスローの腕の向きと同様なので、サイドハンドの投げ方も腕に無理がかからないのでしょう。また、サイドハンドスローの投球では肘をほとんど曲げないので肘は故障しにくいと思われます。また、野球のアンダーハンドスローも同様に故障しにくいと言えます。

 野球のオーバーハンドスローではテイクバックで腕、肘を高く上げる動作が必要ですが、これが肩には大きな負担になります。腕の重さは腕の太さが人によって違いますので、差がありますが、体重の9%位あるそうです。体重70キロでは6キロ近くもあります。ボーリングの13ポンドのボールが5.9キロですから、オーバーハンドスローはいかに肩に負荷のかかる投げ方かがわかります

 野球のオーバーハンドスローは重力に逆らった投げ方なので、肘が一番高く上がるまでは重力に逆らうので、腕のスウィング速度を加速するのもたいへんです。

 腕を加速時にはもっと大きな負荷がかかります。

 ニュートンの慣性の法則により、慣性抵抗が生じます。

 慣性抵抗は質量×加速度ですので、腕を急加速すると肩は大きな負荷(トルク)がかかります。トルクは回転させる力で、てこの原理でいうところの力×距離で表わせます。
 オーバーハンドでテイクバックからの投げ始めにいきなり腕を急に回転させてはいけない理由がここにあります。また、トルクは距離に比例するので、投げ始めに腕が体から離れていると肩に大きなトルクがかかります。前足を着くまで腕を振ってはいけないといわれるのはこのためです。前足を着いて、体の各部分を回転さないと肩には大きな負荷がかかります。

 サイドハンドスローが怪我をしにくい理由

@腕を肩よりも上に上げないので上への負荷が少ない

Aテイクバック時、腕を体の後ろへ大きく引くことができる
 腕が下がった状態では、ボーリング、ソフトボールの投球で分るように腕を後ろへ大きく引くことができます。直立して腕を下げた状態から腕をできるだけ後ろへ引き、肘をのばしたまま腕を肩の真上まで上げてゆくと、肩が痛くなり、腕を上に上げるほど腕は前に出てゆきます。したがって、オーバーハンドスローでは肘を曲げ、体を横に向け手の位置をホームプレートから遠ざかるようにテイクバックしなければ投球ができません。

 ウォルター・ジョンソンの投球フォームは、ボーリングのテイクバックを上体を前傾にして横に捻りながら行います。少し高く上げた腕を重力を利用しながら少し下げながら、体を回転させそのまま遠心力を利用して横に振り出す感じです。肘はわずかに曲げて水平よりも少し下がり気味で少しアンダーハンドスロー気味です。重力と遠心力を利用して投げているので腕が勝手に回っていく感じで、オーバーハンドスローとは比べようもないぐらい非常に楽な投げ方です。
 
ウォルター・ジョンソンの投球フォーム
walter johnson warm up.gif

野球肩、野球肘

 野球の投手は肩、肘の怪我、故障をする危険性が高いのですが、投球フォーム別にみると、上から投げ下ろすオーバーハンドスローが最も故障をしやすいようです。野球に限らず、腕を肩より高く上げてスウィングする(オーバーヘッドスローイング)スポーツ、バレーボールのアタック、テニスのサーブ、バドミントン、水泳(バタフライ、クロール)などでも同様の故障をする可能性があります。

 いずれにしても、オーバーヘッドスローイングをしなければ良いということです。バレーボールのアタックではボールがネットを越すためには腕を高く上げざるを得ません。野球の場合、アンダースロー、サイドスローも可能なので幸いです。オーバースローでも腕の角度を上体の軸と90度にして、上体の軸を垂直から傾ければ腕の角度は水平より上がり、スリークォーターで投げることは可能です。

肘、肩を故障しやすいオーバーヘッドスローイングとは?
オーバーヘッドスローイング.gif

 サイドハンドスローは一般的に肩、肘に負担がかかりにくいと思いますが、肘を曲げた投げ方をすると、やはり故障につながります。
 
 肘を先行させ前腕が遅れて出てくるレイバックの姿勢を取る投手は肘の内側側副靭帯に引っ張応力がかかり、トミー・ジョン手術(内側側副靭帯再建術)が必要になる可能性があります。

 トミー・ジョン手術を受けたサイドハンド投手

元ヤクルトのイム・チャンヨン投手、最速160キロを記録した。2012年7月に手術を受けました。現在はシカゴ・カブスとマイナー契約しており、リハビリ中です。
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ヤクルトの館山昌平投手、最速153キロを投げる。2012年4月12日に2度目のトミー・ジョン手術を受けました。
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 日本のプロ野球のサイドハンド投手で大きな怪我もなく活躍した選手は肘を大きく曲げた投げ方をしていません。

斎藤雅樹投手(元巨人)、通算18年で180勝96敗、防御率2.77
1990年(2年連続で20勝達成)の映像
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saitou masaki1990 7consecutive completes1.gif

鹿取義隆投手(元巨人、西武)、通算19年で91勝46敗、131セーブ、防御率2.76
katori yoshitaka 1992 145km.gif
katori yoshitaka 1992 145kms1.gif

高津臣吾投手、(元ヤクルト、大リーグではシカゴ・ホワイトソックスとニューヨーク・メッツ計2年、韓国、台湾プロ野球に各1年)
ヤクルトでの通算15年で、36勝、46敗、286セーブ、防御率3.20。大リーグ通算2年で8勝6敗27セーブ、8ホールド、防御率3.38。
ホワイトソックスでの投球、球速は86マイル、時速138キロ
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潮崎哲也投手、(元西武)、通算15年で82勝、55敗、55セーブ、防御率3.16。50センチも沈むシンカーが有名で、最速150キロを記録した。
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 大リーグで300勝以上挙げた投手は、大きな故障をせずに20年以上良い成績を残せた投手なので、どういうフォームで投げたのか非常に興味があります。
 
@ロジャー・クレメンス
 通算24年で354勝184敗、防御率3.12、奪三振率8.6/9回、四球率2.9/9回

クレメンスが20三振を記録した時の投球(15三振目)
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 オーバーヘッドスローイングになっていません。腕の角度は上体の軸とだいたい90度となっています。テイクバックで肘をあまり高く上げていません。テイクバックで肘が上がりすぎると、肩も上がりすぎて、肘を大きく曲げたフォームになってしまいます。また、テイクバックからすぐに力を入れて腕を振っていません。前足が着地してから腕の振りが速くなっています。
 フォロースルー(ボールが手から離れて以降のフォーム)も大きく取っています。投球動作はボールが手から離れてから、大きく取り、ゆっくり減速しないと肘、肩に衝撃がきて故障につながります。
 体の重心の位置も両足を結んだ直線上にあり、クレメンスは故障しにくい投球フォームをしていると言えます。




 
 
 
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